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小さいおうち | 中島京子



昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが平穏な日々にやがて密かに“恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきて―。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。著者と船曳由美の対談を巻末収録。(「BOOK」データベースより)


2015年2月27日に開かれた第38回日本アカデミー賞授賞式で、最優秀助演女優賞は黒木華(くろき はる)という女優さんが受賞され、その時の出演映画が「小さいおうち」という映画でした。

そしてつい先日、いいタイミングでこの映画がテレビで放映されました。原作は直木賞を受賞した作品だということです。すぐに図書館で借りて来ました。

本書「小さいおうち」の主人公は、東京郊外の私鉄沿線の町に建てられた、赤い屋根を持つ洋館の平井家に奉公する、タという名前の女中さんです。

平井家の奥様の時子さんは、誰にでも愛される可愛い女性であり、タキさんともとても仲が良く、旦那様の平井雅樹氏、平井家の長男の5歳になる息子の恭一さんと共に、幸せに暮らしています。

そこに旦那様の会社のデザイン部の社員である板倉正治さんが来るようになります。世情はだんだんきな臭くなる中、奥様は板倉正治さんと恋愛事件を起こすのです。

本書「小さいおうち」は、晩年のタキさんが、昔を思い起こしながら綴っているもので、少なくとも途中までは、この回想録を盗み見している妹の孫の健史を読者として書かれているようです。

つまりはタキさんの一人称で語られる回想録なのです。

ただ、最終章は一転して現代に飛び、健史の視点で語られています。

そして、タキさんの回顧録を心ならずも検証することになるのですが、ここで語られていることは「哀切」とでも言うべき事柄で、先に映画を見ていたことが残念に思えてなりませんでした。

タキさんがあのような行動を取った理由や、ひいてはこの本、即ちタキさんの回想録自体の性質など、いくつもの疑問点がわいてきます。

ここまで記すのはネタバレかもしれませんが、友人の松岡睦子さんの言葉や、タキさん自身の言葉など、物語の随所にあらわれる時子という女性に対する賛美ともとれる文章を読んでいると、結局この本は単なる回想録ではなく、タキという女性の平井時子という女性に対するある種の想いを描いたもの、としか思えなくなりました。これは、作者の意図にそのまま乗っかった考えなのかもしれません。

本書「小さいおうち」の文章は、タキさんの言葉という形ではあるものの、とても品が良く、読み易い文章です。時代の流れを一歩引いたところから、庶民の感覚でとらえています。

健史に、タキさんの描写は時代の背景としての戦争を意識していない、と言わせ、現代からの視点を提示し、当時の一般庶民の感覚との差異を明示しているようです。

蛇足ながら、本書タイトルの「小さなおうち」が、絵本の「ちいさいおうち」をモチーフにしているとは気づきませんでした。

幼い頃に読んだ記憶のあるあの絵本、どこで読んだのかも覚えていないのですが、心に残る良い絵本でした。

コメント

  1. moko より:

    この本のことが良く分かりません。
    これは結局どんなテーマなのですか?
    心温まる本ですか?
    切ない内容なのですか?
    最後に書かれてるようにタイトルの「小さなおうち」からは絵本のようなイメージがあるのですが・・・

  2. 雑読者 より:

    > これは結局どんなテーマなのですか?
    何と言えばいいのか、とても表現しにくいです。
    女中をしていたサキさんの、庶民感覚の昭和史を背景にした、心温まる回顧録でもあるし、そうではなく、物悲しさもありつつ、と詳しく書けばネタバレなのです。
    一言で表現しろと言われれば、せつない物語、と言えるかも。
    でも、深い悲しみを誘うお話、とは違うと思います。