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検事の死命 | 柚月裕子 


電車内で女子高生に痴漢を働いたとして会社員の武本が現行犯逮捕された。武本は容疑を否認し、金を払えば示談にすると少女から脅されたと主張。さらに武本は県内有数の資産家一族の婿だった。担当を任された検事・佐方貞人に対し、上司や国会議員から不起訴にするよう圧力がかかるが、佐方は覚悟を決めて起訴に踏み切る。権力に挑む佐方に勝算はあるのか(「死命を賭ける」)。正義感あふれる男の執念を描いた、傑作ミステリー。(「BOOK」データベースより)


本書『検事の死命』は、『最後の証人』『検事の本懐』に続く佐方貞人シリーズの三巻目で、主人公佐方貞人の検事時代の活躍を描いた連作短編集です。個人的な好みとも合致し、近頃読んだミステリーでは一押しの作品でした。

「心を掬う」
何箇所かで郵便物が宛先に届かない、という話を聞きこんだ佐方貞人は、この事実を調べるようにとの指示を出す。郵政監察官にも問い合わせようとすると、当の相手から電話連絡が入った。

若干、舞台設定に強引さを感じないでもないのですが、人の気づかないところに気づくというのが佐方の持ち味であり、その後の思いきった行動でさえも、「罪をまっとうに裁かせる」という彼の原則に則った行為として納得させられます。

「業をおろす」
父陽世の法事のために故郷へ帰った佐方は、陽世の友人でもあり、今回の法事を取り行う龍円寺住職上向井英心に、父親があえて実刑を選んだ理由を尋ねる。すると英心は答えをはぐらかしながら明日の法事に客が増えても良いかと問うてきた。

本章の冒頭に編集部のことばとしても書いてあるのですが、この物語は『検事の本懐』に収録されている「本懐を知る」の完結編に当たります。そちらを先に読むべき物語です。

佐方のよって立つ原点である父親の真の姿を情感豊かに描き出しています。若干「情」の側面が勝ち過ぎている感じは否めませんが。

「死命を賭ける(死命 刑事部編)」・「死命を決する(死命 公判部編)」
女子高生仁藤玲奈の臀部を触ったとして起訴された武本弘敏は一貫して痴漢行為を認めない。武本が婿養子として入った武本家は県内有数の名家であり、県の政財界は勿論、国会議員ともつながりがあるという。一方被害者は万引きや恐喝容疑で補導された過去を持ち、家庭も決して裕福ではない母子家庭であった。その後、与党の実力派代議士大河内定和や県会議員などを通じ、鬼貫正彰検察正や米崎東署の署長南場輝久らにも圧力をかけてくる武本家だった。

主人公の佐方は、はじめは刑事部所属として本案件の担当になり、自ら捜査の指揮をとります。そしてさまざまな妨害を乗り越えて起訴に持ち込むのですが、その後に公判部への異動となりこれまた自ら法廷に立つのです。

物語自体は県の有力者に対する若輩者の地方検事という構図であり、そのこと自体は取り立てて珍しいものではありません。

しかしながら、『最後の証人』や『検事の本懐』でもそうでしたが、著者のこのシリーズというか佐方貞人というキャラクターに対する思い入れの強さが感じられ、設定そのものは特に目新しくは無くても、その舞台に登場する人物たちの動きは目を見張るものがあります。

勿論、無条件に面白いというわけではありません。それどころか、情の側面が強すぎるとか、舞台設定が極端に過ぎないかとか、首をひねる個所も多々あるのです。著者が尊敬するという横山秀夫は私も一番好きな作家さんですが、前にも書いた「横山秀夫の作品であれば決して抱かない違和感」があるのです。

やり手と言われる弁護士に「青いな。そんな青臭い考えでは、君はいずれその使命感とやらで、自分の首を絞めることになる。」と言わせています。前巻でも同様な場面がありました。

ということは、著者も佐方の行動は青く、普通は通らない論理であることを十分に計算したうえで描いていると思われます。

それでもなお自分の信じるところを貫く佐方の行動にカタルシスを得るという、痛快小説の王道を行く作品であるのでしょう。それには作者の力量が必要であり、そしてそれに十分答えていると思うのです。

とにかく、続編を早く読みたいシリーズであることに間違いありません。

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