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首都感染 | 高嶋哲夫


二〇××年、中国でサッカー・ワールドカップが開催された。しかし、スタジアムから遠く離れた雲南省で致死率六〇%の強毒性インフルエンザが出現!中国当局の封じ込めも破綻し、恐怖のウイルスがついに日本へと向かった。検疫が破られ都内にも患者が発生。生き残りを賭け、空前絶後の“東京封鎖”作戦が始まった。(「BOOK」データベースより)


パニック小説としてまあ良くできた物語ではありました。と同時に、主人公の設定が少々都合良すぎるのではないかとの印象がぬぐえなかったのも否めません。

強毒性の60%を超える致死率を持つ新型インフルエンザの出現、中国政府の隠ぺいなどは、この手の小説のお決まりであり、これはまあいいのです。

しかし、東京封じ込めという強硬策の実行のためには総理大臣および厚生大臣に強烈なパイプを持つ人間の存在が必要と考えられたのか、その両者が主人公瀬戸崎の父及び義理の父という、かなり強引な設定が設けられています。

こうした強引な設定は、そのほかの重要な登場人物の配置にも見られます。

その結果、主人公の父親や別れた妻、別れた妻の父親、そして主人公の友人などに重要人物が集中することになり、舞台設定に違和感を感じないわけにはいかないのです。

その結果、パニック小説で描かれるべき緊迫した状況下での人間ドラマが少し弱いという結果になったように思えます。

描かれるべき人間ドラマまでもリアリティを失ってしまうのです。

では、パニック小説のもう一つの醍醐味である、危機的状況下での対応策という点ではどうかというと、パンデミックに対しての「東京封鎖」という大きなイベントを設定してあります。

しかし、その封鎖を実効的なものとするための施策が一応は描写されているのですが、そこでの出来事が物足りませんでした。

結局、危機的状況下での人間ドラマと、異常事態への対応策のそれぞれが満たされない気持ちで終わったのです。

この本の前に読んだこの著者の作品としては『ジェミニの方舟』があるのですが、この作品の方が若干ですが、現実感があり作品の世界に入りやすかったと思います。

エンターテインメント小説としても、かなり面白く読めました。

とはいえ、パンデミックという極限状況下での、自分は大丈夫、ひとりくらい、という認識の怖さ、個々人のエゴイズムなどは、それなりに描かれていたのではないでしょうか。

現実にそのような事態が起きたときに、自分が冷静に対処できるかはいつも言われることではありますが、なかなかに難しいことでしょう。

こうした出来事が架空の物語ではなく、現実化した時に個々人がどのように行動するかのシミュレーションとしての意義を持つことができれば、それはまた大きな意味を持つと思います。

この作家は他に「地震」や「津波」などをテーマにした作品や、映画化もされた「ミッドナイト・イーグル」のような冒険小説もあるそうなので、また読んでみたいと思います。

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