上総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい少女だった。十八歳になったあいは、運命の糸に導かれるようにして、ひとりの男と結ばれる。男の名は、関寛斎。苦労の末に医師となった寛斎は、戊辰戦争で多くの命を救い、栄達を約束される。しかし、彼は立身出世には目もくれず、患者の為に医療の堤となって生きたいと願う。あいはそんな夫を誰よりもよく理解し、寄り添い、支え抜く。やがて二人は一大決心のもと北海道開拓の道へと踏み出すが…。幕末から明治へと激動の時代を生きた夫婦の生涯を通じて、愛すること、生きることの意味を問う感動の物語。(「BOOK」データベースより)
あいの夫関寛斎は、佐倉順天堂で蘭医学を学んだ後に、一旦は銚子で開業したものの、再び長崎でポンぺに学び徳島藩の典医となります。
戊辰戦争では敵味方の区別なく治療を施しその名を高めたものの、名声、官位を望まず、徳島に帰り民間で治療と後継の育成に努めたそうです。
その後、73歳で北海道開拓に身を捧げました。
この人の記録は詳しいものが残っているものの、その妻あいに関しては「婆はわしより偉かった。」という寛斎の言葉だけをたよりにこの物語を紡ぎだしたと、あとがきにありました。
高田郁という人の文章は実に淡々としています。それが若干の物足りなさを感じることもあるのですが、本作ではそれがかえって良かったのかもしれません。
常に明るく暮らすあいを過剰な言葉で飾ること無く描いており、貧困という日常でのあいの寛斎への愛情が浮かび上っているのです。
資料が少ないとはいえ、実在の人物を描くのです。作家はその実像とのギャップをどう折り合いをつけるのか、疑問に思っていました。
しかし、作者はあいの実際の遺言を読んだそうで、その遺言も本書の中に紹介してあります。夫への愛情にあふれたその遺言からは、本書で描かれたあいは実像そのものと思えました。
「逢」「藍」「哀」「愛」という4つの章建ても見事なこの本は、あいと、何事にも不器用な寛斎との愛に満ちた物語でした。
もう一点。蛇足ですが、関寛斎の後援者として描いてある濱口梧陵のことは、私の友人の講演の中で聞いたことがありました。
危機管理についてのその講演の中で触れられた「稲むらの火」という話は小泉八雲の作品の翻訳・再話で、安政南海地震津波の時のある庄屋の人助けの話を描いた作品でした。
そのモデルが濱口梧陵だったのです。この濱口梧陵という人がまた素晴らしい人だったらしく、一編の物語が出来そうです。

コメント
常に明るく暮らすあい・・・
日常のあいの夫への愛情・・・
不器用な夫との愛情あふれる・・・
何だか重ね合わせる家庭があるんですが・・・
勿論、読んでないのですがさりげない温かさのある本の様ですね~
友人の危機管理に関する講演とは、もしかして彼の講演ですか?
関寛斎という人は他に司馬遼太郎の「胡蝶の夢」で松本良順と共に取り上げられているそうです。
この人は社会奉仕を第一義として生き抜いた人らしいけど、その奥さんはそのような夫にひたすらついていくのですから大変だったでしょう。資料の無い中、高田郁という作家はイメージを膨らませてこの本を書き上げたのですね。素晴らしいです。
誰かを思い出したみたいだけど、ペルーにまでついて行った奥さんが身近にいたよね。
思い出したのはその人のことでしょう。
講演のことはその「彼」です。