独り暮らしの初老男性が絞殺死体で発見された。捜査線上に浮上したのは家事代行業の地味な女性。女の周辺では、複数の六十代男性の不審死が報じられ、疑惑は濃厚になっていく。女は、男たちから次々に金を引き出していたのか。見え隠れする「中川綾子」という名前の謎とは。逮捕後も一貫して無実を訴える彼女だが、なぜか突如、黙秘に転じた…。判決の先まで目が離せない法廷小説の傑作。(「BOOK」データベースより)
綿密な捜査状況、そしてその後の法廷の様子までをも丁寧に描き出している長編の警察小説であり、法廷小説です。
これまで読んできた佐々木譲の作品からするとかなり異なる印象の長編の物語でした。
まず、赤羽の資産家が殺された事件のいわゆる地取りと呼ばれる聞き込み捜査の状況がかなり詳しく語られ、また殺害現場の状況も詳細に描写されて行きます。
その捜査に携わるのは赤羽署のベテランの刑事ですが、殺人事件の常として捜査本部が置かれると本庁の刑事一課のベテラン刑事が乗り込んできて、ペアを組まされるのです。
ここで赤羽署の刑事と組む一課の刑事が若干問題ありで、見こみ捜査のニュアンスが漂います。その後の物語の展開を示唆されているようです。
被害者の日々の様子が次第に明確になっていき、この数日の間に殺害現場を訪れている家族、リフォーム業者、デリヘル嬢や不動産業者、それに家事代行業者などが次々に浮かび、そしてあるものは捜査の対象に残り、あるものは対象から外れて行きます。
その様子が実に克明に描写されています。実際の警察の捜査もこうあるのだろうと思わせられ、この作者の警察小説でよくあるように緻密に事実が積み重ねられていきます。ただ、常の小説よりも描写が詳細であり、少し異なるという印象は受けます。
その後に、埼玉県警との捜査の衝突が起き、両警察の面子がかかってくる様子が描かれます。このあたりの描き方は物語であるからこそなのか、現実にもそうした縄張り意識があるのか分かりませんが、巷で言われていることからすると、現実にありそうな事柄ではあります。
本書も半ばになると、容疑者が起訴され、場面は法廷に移るのですが、ここでの描き方は容疑者の恋人と思われる人物の目線になります。つまりは傍聴人ということになるのです。
傍聴人の東京地方裁判所での傍聴の手順から描かれ、読み手が法廷に自ら入っていくかのように描き出してあります。この目線はなかなかに面白いものでした。
ここでの法廷の様子が実務に即したもので、最後に弁護士の「助言」、「ご教示」、「単行本化に際しての監修」に対する謝辞があるように、実務家の手ほどきを受けて現実の手続きを踏襲してあるのです。
通常の法廷ものとはかなり異なると言っていいと思われます。あくまで現実的に訴訟手続きが進み、裁判員裁判の評決へと進むのみです。
佐々木譲という作家は多くの警察小説を著わしておられますが、この作家のこれまでとはちょっと異なる、それでいてこれまでの作風の延長線上にあって人間の姿が置き忘れられることもない警察、法廷ものとして特異な位置を占めるかもしれません。

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