日本最大の暴力団、菱口組系の組長が姿を消した。殺されているのは確実だが警察には届けられない。調査を依頼された元ヤクザの探偵・矢能。容疑者は動機充分のヤクザ達。内部犯行か抗争か。だが同じ頃、失踪に関わる一人の主婦も行方不明になっていることが発覚する。最も危険な探偵の、物騒な推理が始まる。(「BOOK」データベースより)
この木内一裕という作家の作品はどんどん読みやすくなっている感じがします。
本「矢能シリーズ」第一作目『水の中の犬』は別人が主人公で、本書に比べると少々暗いトーンで進行する物語でした。そこでの登場人物の一人だった男がその後の主人公の立場を引き継いだのが元ヤクザ矢能政男を主人公とする本「矢能シリーズ」です。
前作の『アウト & アウト』からはコミカルな雰囲気をも漂わせながらも、こわもてのヤクザが主人公らしい暴力的な雰囲気を漂わせています。しかし、第一作のような暗さはなく、どちらかと言えば能天気であって、栞との会話が実に微笑ましいのです。
悪漢が主人公の小説と言えば大藪春彦や馳星周、楡周平らが思い浮かびます。それらの作品と比べると、本書をそれらの作品と同様に考えて良いものか若干の疑問が残ります。
というのも、本書の主人公は元ヤクザであり主人公が悪(ワル)ではあるのだけれど、その内実は栞という存在を出すまでも無くキャラクターの面白さが勝ったエンタメ小説だと思うからです。
馳星周らの小説は悪と定義される主人公の活躍を通してある種今の社会への抵抗とでも言って良いような主張を感じるのですが、本書はそこまでの背景は感じられません。エンタメに徹していると言えそうです。
勿論馳星周らの作品もエンターテインメント小説であることには違いはないのですが、読後の印象が異なります。
本書は実に軽く読めます。徹底した強面ではありながら、内面の優しさが表に現れることを潔しとしない矢能の振舞いは読んでいて微笑ましいのです。人によってはこの点こそが疵だという人もいるかもしれませんが、私はこのような描写に心を掴まれるのです。
この作家は『喧嘩猿』という森の石松らが活躍する侠客ものとも言える面白い作品があります。続編が出ないものか、期待しているのです。

コメント
その世界を、その世界のものが探るという筋書きが面白そうです。
> その世界を、その世界のものが探るという筋書きが面白そうです。
気楽に読めて、面白いですよ。