東京から3時間も飛ばせばたどり着くN市でキャバレーとバーを経営している川中は、レーザーの研究をしている弟が会社から機密資料を盗みだしたとして、色々なところから接触をうける。莫大な金が絡むその情報を握る弟を助けるべく、川中は行動を開始する。
この本を読むのはもう何度目のことでしょうか。何度読んでもその面白さは色褪せません。
北方謙三の本を読んでいると特に思うのですが、通常一般人にとっては現実にはまずあり得ない出来事が描かれています。
やくざに対し度胸だけで立ち向かい、蹴られ、殴られても最後には気力で相手を倒すことなどありえません。そんな喧嘩自体がまず無いし、あってもただ逃げるだけです。
敵わないのを承知で理不尽な暴力に敢然と立ち向かい、喧嘩自体は負けても男の矜持自体は常に持ち続ける、そんな男などまずいないのです。
しかし、いる筈のないそんな男が、普通ならば恥かしくて言えないような台詞を口にしても違和感なく成立してしまう、そんな世界がきちんと成立しているのですから見事です。
本書の主人公は特にタフです。なにしろ元ボクサーのパンチを喰らっても倒れずにいる程なのですから。元アメリカンフットボールの選手という設定は伊達ではありません。
そして、何よりも「死」に対する恐怖が通常人とは全く異なります。
忘れていけないのは、他の登場人物が魅力的なことだし、その脇役である筈の登場人物もまた「死」についての恐怖をどこかに忘れてきているようで、そのことが男の誇りをより明確にしているように感じます。
「男」の失くしてはならない矜持を描き出す北方謙三の小説は、一歩間違えば三文小説になりかねないベタな気障さを常にまといながら、しかし骨太のハードボイルドとして成立しているのです。
本書は「ブラディドール」シリーズの第一作目の作品です。この後、語り部を変えながら、川中やキドニー達が活躍します。絶対に面白いシリーズです。

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