“教室の片隅で密かに小説を書く女子高生と、彼女に興味を惹かれる同級生”“事故で失明した妹と、彼女を気遣い支える姉”“音大入試に挫折して実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女に反発する妹”“年上の女性に熱い思慕を抱く令嬢”交わらないはずの彼女たちの人生が一つに繋がるとき、待ち受ける運命とは!?四つの物語が交錯し、スリリングに展開する青春ミステリー。(「BOOK」データベースより)
本書『ボーダレス』は、如何にも誉田哲也の小説らしい四つの話を視点を変えて紡ぎながら、次第にそれらの話がサスペンス感満載にリンクし、そして展開される、面白いのだけれどしかし何とも違和感の残る微妙な小説でした。
物語のリンクの他にも、いくつかの細かな仕掛けがあります。もしかしたら私が気づいていないだけで、他にもあるかもしれません。
その一つが、片山希莉という女子高生の書いている小説が森の中を逃げている姉妹の話だということです。
その姉妹は靴下のまま森の中を逃げているのですが、すぐに視点が変わり、森の中を靴下のまま手を取り合って逃げている姉妹の話が続きます。
もう一つは「カフェ・ドミナン」の市原家の一家団欒の場面で、山の中で死体が発見されたという事件に絡んで、「ストロベリー・ナイト」事件が話題に上ることです。
さらに 本書『ボーダレス』をよくみると、女子高生らを描いた青春小説、格闘家である父親から手ほどきを受け山の中を逃げている姉妹の格闘もの、ピアニストだった琴音と現役のギタリストの叶音姉妹の音楽小説、深窓の令嬢と正体不明の女のエロチックミステリー、という異なるジャンルの話になっています。
この点に関しては作者誉田哲也が「私は真面目に嘘をつく」というエッセイの中で、自分は様々なジャンルの小説を書いているのであり、「そんなのが全部交ざったらどうなるのかな」と書いておられます。
また、「過去に書いた事件のその後ってどうなったのかな、と考えることもある。たとえば 『 ストロベリーナイト事件 』 」、とも書いています。
その上で、「ここまでの話が全部、新作『ボーダレス』の内容についてだったとしたら、どうですか。」と書いていて、誉田哲也の遊び心が顔を出しているのです。
そして実際、誉田哲也が企図した通りの小説として出来上がっています。
ただ、何も知らないままで 本書『ボーダレス』を読んでの読後感は、単純に、誉田哲也の小説としては普通だった、というものでした。
幾つかの話を同時進行的に進め、後にその話をリンクさせるという手法は決して目新しいものではなく、誉田哲也自身が多用する手法でもあるし、その意味では何ら特別なものではありません。
加えて、結末がどうにも尻切れトンボであり、本当にこれで終わりか、という何となくなし崩し的な終わり方であり、読み終えての欲求不満が残ってしまいました。
さらに言えば、八辻姉妹の父親孝蔵や、深窓の令嬢のその後、その令嬢の相手となる正体不明の女など、誉田哲也の他の作品では緻密に描かれる筈の人間の描写が半端に感じられるのです。
そうした何となくの違和感が残ることもあり、 本書『ボーダレス』は 誉田哲也の小説として面白くはあるのですが、いつもの強烈なインパクトのない作品に感じてしまったのでしょう。
後に誉田哲也のエッセイを読み、少しは納得することもあったのですが、全体的にはやはり不満感は残っています。

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