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検事の本懐 | 柚月裕子


ガレージや車が燃やされるなど17件続いた放火事件。険悪ムードが漂う捜査本部は、16件目の現場から走り去った人物に似た男を強引に別件逮捕する。取調を担当することになった新人検事の佐方貞人は「まだ事件は解決していない」と唯一被害者が出た13件目の放火の手口に不審を抱く(「樹を見る」)。権力と策略が交錯する司法を舞台に、追い込まれた人間たちの本性を描いた慟哭のミステリー、全5話。第15回大藪春彦賞受賞作。(「BOOK」データベースより)


本書『検事の本懐』は、 全五話からなる、著者の意気込みが感じられる社会性の強い連作の短編集です。2012年には山本周五郎賞候補になり、そして2013年には大藪春彦賞を受賞しています。

本書は、前の『最後の証人』ではヤメ検として登場していた佐方貞人が新進気鋭の検察官として活躍する、胸のすく一面もあるミステリーです。

「樹を見る」
米崎東警察署署長の南場と県警本部刑事部長である佐野との間には出世絡みの確執があった。問題はその確執が捜査の妨害さえ厭わないほどになっていることであり、今回の連続放火事件の被疑者逮捕に際しても佐野の横やりが入ることが予想されるのだった。そこで米崎地方検察庁刑事部の副部長の筒井義雄に相談すると、佐方貞人検事が担当することとなった。

「あいつは条件やデータだけで事件を見ません。事件を起こす人間を見るんです。」と上司の筒井に言わしめた、「樹海から一本の樹を見つける」佐方の活躍が、米崎東警察署署長の南場の視点で描かれます。

同時に、警察内部の人間関係のしがらみのために無関係の市民が罪を被りかねない現実をも告発しているようです。

「罪を押す」
小野辰二郎は出所したその日に再び窃盗事件を起こし、米崎地方検察庁へと送られてきた。筒井は佐方に取り調べを任せるが、簡単な事件と思われたこの事件は思わぬ様相を見せるのだった。

「罪はまっとうに裁かれなければならない」という思いを胸に、人間の行為の裏にある意味を探りだします。ここでも「窃盗」という行為を犯した犯人の隠された動機を暴きだします。そこには思いもかけない人間ドラマがあるのす。

「恩を返す」
高校時代の同窓生である天根弥生から12年ぶりに電話があった。広島県呉原市にある呉原西署の生活安全課に勤務する勝野正平という現職の警官に脅迫を受けているという。佐方は12年前の約束を果たしに呉原市に帰るのだった。

本書 『検事の本懐』 は主人公佐方貞人の検事時代を描いていますが、この話ではそこから更にさかのぼって高校時代の佐方の姿をも描き出しています。

同時に、警察内部の問題警官にも臆せずに立ち向かう佐方の胸のすく立ち合いは読みごたえがあります。ここらの広島弁でのやり取りは、のちの『孤狼の血』を彷彿とさせるものがあります。

「拳を握る」
東京地検特捜部に応援に入った佐方の活躍が、佐方と組ませられた山口地検からの応援部隊である事務官の加東寿朗の目線で描かれています。

本章では、佐方に対し同僚の輪泉副部長に「青臭い正義感を振りかざしやがって!」と言わせています。政治家絡みの疑獄事件解決のために「事実かどうかは問題じゃない!」というのです。巨悪を追い詰めるためには無実の個人を罪に陥れることも必要悪だという検察の態度が取り上げられています。

ここで一冊の本を思い出しました。「特捜検察」という魚住昭というジャーナリストが書いた新書です。この本が出版された後に特捜所属の検察官による証拠隠滅事件が現実に起きたのではなかったでしょうか。こうした物語は決して絵空事ではなく、現実に起きているのです。

「本懐を知る」
連載のネタ探していたライターの兼先守は、佐方陽世という弁護士が実刑を受けた事件を調べてみようと思い立った。佐方弁護士が財産管理を任されていた小田嶋建設会長の他界後、会長からの預かり金を横領したのだという。完全黙秘を貫いた佐方弁護士は、懲役2年の実刑判決を受け、控訴すらせずに確定しているのだ。

佐方貞人の父親の過去を掘り起こす物語です。「罪を押す」と併せて佐方の過去を語る物語になっています。

本書『検事の本懐』は、全体的に作者である柚月裕子が敬愛するという横山秀夫の作品の雰囲気に似たところもありますが、それとは別に作者の熱意が感じられる作品集になっています。

このシリーズは今後かなりの期待を持って読みたいと思わせられるのです。それほどに私の好みにあった作品でした。

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