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孤狼の血 | 柚月 裕子 


昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。(「BOOK」データベースより)


本書『孤狼の血』は『孤狼の血シリーズ』第一巻目であり、菅原文太主演の映画『仁義なき戦い』を思い出させる長編の警察小説で、第154回直木賞候補になった作品です。

端的に言って、とても面白い作品でした。

ヤクザの交わす小気味いい広島弁が飛び交う、それでいてヤクザものではない、エンターテインメントに徹した警察小説です。この手の暴力団ものが嫌いな人には最も嫌われるタイプの本かもしれません。

悪徳警官ものはこれまでにもいろいろ読んできましたが、本書も文字通りの悪徳警官の物語です。

大上章吾という男の強烈な個性は類を見ません。新米刑事の日岡秀一が最初に大上に会ったとき「なに、ぼさっとしとるんじゃ!上が煙草出したら、すぐ火つけるんが礼儀っちゅうもんじゃろうが!」と怒鳴られます。「ええか、二課のけじめはヤクザと同じよ。・・・ヤクザっちゅうもんはよ、日頃から理不尽な世界で生きとる。・・・そいつら相手に闘うんじゃ。わしらも理不尽な世界に身をおかにゃあ、のう、極道の考えもわからんじゃろが」と言い切ります。

そのあとヤクザと喧嘩をさせられたり、ヤクザの事務所に情報収集に回ったりと、日岡はめちゃくちゃに大上に振り回されます。そのうちに神風会と明石組という二大全国組織の系列に連なる五十子会系列加古村組と尾谷組との対立の構図に、自ら踏み込んでいくのです。

大上は神風会系列には瀧井組の瀧井銀二という幼馴染がおり、明石組系列の尾谷組の一之瀬とも深い絆があります。そのうえでヤクザから金を受け取り、共に酒を酌み交わす大上にどこか違和感を覚える日岡です。

呉原の街を舞台にした抗争劇が今にも起きそうになり、それを回避すべく大上の独走は続き、物語の終焉に向けてひた走るのです。

菅原文太の広島ヤクザものに加え、勝新の兵隊やくざものの雰囲気をも持った、エンターテインメントに徹した小説です。それでいて主要な登場人物の書き込みもあり、内面の描写も適宜にあって感情移入もしやすく組み立てられています。

ただ、日岡秀一と大上章吾以外の警察のメンバーについての書き込みが若干弱く、警察の側面をもう少し描いてほしかった、という不満はありました。でも、それがヤクザの側に軸足を移している本書の魅力かもしれず、無い物ねだりなのかもしれません。

また、直木賞の選評をみると、新鮮味に欠けるとか、人間の機微が足りないなどという言葉が目立ちます。東映映画を思い出す、という感想も結局は既存の映像に直結するという意味では独自性が無いのかとも思います。

しかし、面白かった、のです。久しぶりの小気味良い小説であり、この作家の他の作品も読んでみたいと思います。


ちなみに本書を原作として、役所広司と松坂桃李とをメインキャストとして映画化されています。

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