おたみが切り盛りする髪結床の猫字屋は今日も大賑わい。近所の住人たちがそぞろ集まり、おしゃべりや噂話に花を咲かせる。そんな折、居職の箸師・得次郎が刺されたという。なぜか自身番には届け出ないでほしいと懇願する得次郎が今わの際につぶやいた「忘れ扇」とは一体何なのか?姿を消した女房のお阿木、遺された3人の子供…一筋縄ではいかない男女の情や、血は繋がらなくとも通いあう親子の情。涙をしぼる人情時代小説シリーズ、スタート!
登場人物がどうも以前読んだものと一緒だと思ったら、設定が同じで視点だけを変えた物語でした。
以前読んだ「照降町自身番書役日誌」シリーズは、武家の身分を捨てて町人として小舟町の自身番書役を務める喜三次が主人公で、自身番に持ち込まれる事件を中心に様々な人間模様を描いてありました。
ところが今度はその自身番の斜め前にある髪結床の「猫字屋」が舞台となっています。当然登場人物もほぼ同じで、ただ、髪結床が舞台なので「さらに活気に満ちた庶民ならではの『江戸』を体感できることにもなった(解説より)」のです。
確かにこの「猫字屋」の店先で常連客が交わす会話はいかにも庶民の雑多な会話が交わされていて、小気味のいい響きがあります。「女ごのじなつく仕草」だとか、「ひょっくら返す」だとか、独特の言い廻しがあるのです。
以前の「鷺の墓」は武家ものだから異なるとしても、「立場茶屋おりき」でもこうした雰囲気は無かったような気がしています。ただ、ほんの少し、例えば「情状酌量」のような、そうした言葉を使っていただろうか、と疑問に思う言い廻しがあり、ちょっと気にはなりました。
同じ舞台設定で主人公だけを変えて物語をつないでいく、という手法は、北方謙三の「ブラディ・ドールシリーズ」で、巻毎に主人公を変えているものがありましたし、似たようなことを他の作家でも見たことはあります。しかし、シリーズそのものを新たにするというのは、初めてではないでしょうか。
本作では新たに髪結床をメインにすることで髪結床に集まる人々そのものが物語の主体となり、解説にあるように、より身近な物語が出来上がっているような気がします。
蛇足ですが、「照降町」という町の名前は、雪駄屋、下駄屋、傘屋が軒を連ねていて夫々に晴れ、雨を望むところからついたといいます。
実に洒落た町名で、古地図をみると日本橋北内神田両国「てりふり丁」とありました。古地図の中に実際にその名前を見つけるというのはまた、時代小説の一つの楽しみでもあります。

コメント
高野和明の「グレイヴディッガー」エピローグを読んでいる時にテレビを見ていた嫁さんから舛添要一が当選したようだと云ってきた。
「グレイヴディッガー」は図書館の閉架2号にしまわれていました。狭い図書館なのですべての図書を目につく場所には置けないのでしょう。リクエストを出して閉架2号から出して貰いました。
面白異本で、自分の読書速度では考えられない速さで読み終えました。
時間差なく話が進行する形態は好きで、siroさんが云うようにスピード感あふれる内容でした。
次は今井恵美子の本を読みたいと思います。
これから都知事選のニュースを見ます。
いつも本ブログを読んで下さり、有難うございます。
「グレイヴディッガー」は読み手も調子に乗って読み進んでしまう、そんな面白さを持った物語でしたね。
他の小説もこのタッチかと思っていたら少々異なっていた作家さんでした。
東京都知事選は結果発表が早かったですね。
でも、その良し悪しは別にして、発表の速さに妙に納得してしまいました。