パート勤めの田村裕美は、五年前に結婚した夫の洋平と保育園に通う娘の亜美と暮らしている。ある日彼女は見ず知らずの他人、中野由巳という女性の記憶が自分の中に存在していることに気づく。その由巳もまた裕美の記憶が、自分の中にあることに気づいていた。戸惑いつつも、お互いの記憶を共有する二人。ある日、由巳が勤める会社に洋平が営業に来た。それは…。(「BOOK」データベースより)
眼が覚めたとき、今日の自分は誰なのか、一瞬考える。税理士事務所に勤める田村裕美なのか、企画事務所に勤める中野由巳なのか、二人はそうやって朝を迎えていた。
日常の生活に入れば他人の記憶は薄れてしまうのだが、日が経つにつれもう一人の記憶が明確な記憶として残るようになってきた。そして、中野由巳の前に一人の男が現れた。
相変わらず梶尾真治タッチは健在です。熊本市の繁華街が舞台なので更に親しみがわきます。
ただ、これまでとは少々趣の異なりサスペンス色が濃い物語でした。タイムトラベルものではあるのですが、記憶を共有する二人のユミのこの現象に対する謎解き、と言って良いのかは分かりませんが、がメインなのです。
結果、いつものように時間軸を飛び越えてしまい、過去の改変に至ります。
そして、いつものように、異変の原因それ自体は物語の前提ですので、その前提にのっとった上での危険からの回避行動が物語を盛り上げます。
ただ、何となく物足りなさがありました。いつもの、梶尾真治作品の底流にある人間賛歌とでも言うべき人間への温かい思いが薄いせいかもしれません。
本作品では主人公達の「行動」が主体で主人公の恋人や配偶者に対する「想い」が今一つ描き切れていないように思えたのです。
でも、梶尾真治の物語ですから、ロマンチックな香りも勿論ありつつのサスペンス色の濃い物語です。
これまでの、例えば消失刑などと比べれば若干の物足りなさは残りますが、それでも軽く読めて面白い物語でした。

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