遺骨の入ったケースを胸に、それぞれに事情を抱える橘裕也と戸村サヤカ、勝田慎二の三人は、ヒマラヤ未踏峰に挑んでいた。彼らをこの挑戦に導いたのは登山家として世界に名を馳せ、その後北八ヶ岳の山小屋主人になった“パウロさん”だった。祈りの峰と名づけた無垢の頂きに、はたして彼らは何を見るのか?圧巻の高所世界に人間の再生を描く、著者渾身の長編山岳小説。(「BOOK」データベースより)
橘裕也は薬への依存から万引き事件を起こした過去を持ち人生を捨てかけていた。
戸村サヤカは天才的な料理人としての腕を持ちながら、人とのコミュニケーションをとりにくいアスペルガー症候群という病に罹っていて人生をあきらめかけていた。
勝田慎二はイラストを書かせたら一級品だが、軽度の知的障害を持つ身だった。
そうした三人が力を合わせ、勝手にビンティ・ヒュッテと名付けたヒマラヤの未踏峰の初登頂に挑戦する物語です。
前に読んだ「還るべき場所」と比べると、少々迫力に欠けるきらいはあります。そういう意味では「春を背負って」との中間に位置する作品でしょうか。
本作品は、「還るべき場所」の手に汗握るサスペンス色はありませんし、「春を背負って」に見られる山小屋での人との出会いからもたらされるほのぼのとした人間ドラマもありません。
しかし、俗世のプレッシャーに押しつぶされ掛けた主人公橘裕也達の再生の物語としてみると、なかなかに捨てがたいものがあります。
実社会での、良好な人間関係の保持、という作業はもしかしたら一番困難な事柄かも知れません。三人ともその点に障害を持つ人間です。
しかし、パウロさんというかつての世界的なクライマーのもとで働く三人はお互いに信頼できる仲間となり、互いに助け合い、自らの力で未だ誰も登頂していない名も無い山に登ろうとするのです。
「ここで逃げたら、死ぬまで人生から逃げ続けることになる・・・」というこの本の帯にも書いてある台詞は読み手の心に迫ります。
小説としての面白さからすれば、先に書いたように「還るべき場所」の方が数段面白いと思います。それでも、この本もなかなかに捨てがたい物語ではないでしょうか。
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作家のすごさは、筋を組み立てることです、
物語を緻密に作り上げられる事への才能がすごい。
高尾山599mスカイツリー634m
もし私が高いところを題材にするとこの辺の物語かも。
> 作家のすごさは、筋を組み立てることです、
> 物語を緻密に作り上げられる事への才能がすごい。
本当にそう思います。
作家さん達の想像力の凄さにはただただ恐れ入るだけですね。