東京湾岸で男の射殺体が発見された。蒲田署の刑事は事件を追い、捜査一課の同期刑事には内偵の密命が下るーー所轄より先に犯人を挙げよ。捜査線上に浮上する女医の不審死、中学教師の溺死、不可解な警官の名前。刑事の嗅覚が事件の死角に潜む犯人を探り当てたとき、物語は圧巻の結末になだれこむ。徹底したリアリティと重厚緊密な構成で警察小説の第一人者が放つ傑作長編。『犬の掟』改題書。(「BOOK」データベースより)
これまでの佐々木譲の系統からすると若干異なる印象を持った、それでもなお王道と言っていい長編警察小説です。
『警官の血』では親子三代にわたる大いなる時の流れの中での警察官一家の物語を、『笑う警官』では汚濁にまみれた北海道警察という組織の中での個人としての警察官の葛藤を、『制服捜査』では北海道の地方駐在所のお巡りさんを主人公とした、より日常生活に密着した物語を、それぞれに描いていました。つまり、佐々木譲の警察小説は、重厚な物語の流れの中に人間ドラマを上手く織り込んだミステリーだったように思います。
ところが本作では40時間という短時間の中で、その事件への視点を異にした二組の捜査グループを設定し、そのそれぞれの動きを克明に追いかけることで緊迫感を盛り上げています。大きな物語の流れの中での人間ドラマ、ではないのです。凝縮された時間の中での刑事たちの活動を追い掛けながらサスペンスフルな物語が構築してあります。
蒲田署盗犯係の波多野は、門司巡査長という先輩と組み死体発見現場近くの地域を担当することとなり、緻密な聞き込みを続けていきます。その二人の様子が克明に記されていきます。
一方、警視庁捜査一課の綿引と松本章吾は、管理官の伏島信治警視から波多野らが捜査している殺人事件が警察関係者らの犯行である疑いあるため、その真偽を確かめるべき特命を受けるのです。
このふた組の行動が交互に描写されていきます。ちょっと気を抜いていると、それまで読んでいた話が別の組の話に移っていたりするので要注意です。しかしこの構成は緊迫感を醸成し、クライマックスヘ向けてひたすら突き進む印象を抱かせて効果的でした。そして、意外な結末を迎えるのです。
これまでの佐々木譲の作品とはまた違った、それでもなおやはり面白いとしか言いようのない物語でした。