三月末、北海道東部を強烈な吹雪が襲った。不倫関係の清算を願う主婦。組長の妻をはずみで殺してしまった強盗犯たち。義父を憎み、家出した女子高生。事務所から大金を持ち逃げした会社員。人びとの運命はやがて、自然の猛威の中で結ばれてゆく。そして、雪に鎖された地域に残された唯一の警察官・川久保篤巡査部長は、大きな決断を迫られることに。名手が描く、警察小説×サスペンス。(「BOOK」データベースより)
本書は、『駐在警官・川久保篤シリーズ』の第二弾です。シリーズ前作の『制服捜査』は連作短編集でしたが、本作は文庫版でも504頁という長編の警察小説です。
前作では、道東にある志茂別駐在所に勤務する川久保篤巡査部長が探偵役として、町で起こる様々な事案に対処する物語でした。
今回はそれとは異なり多くの事柄が同時多発的に発生し、いわゆるグランドホテル形式で物語は進みます。めずらしく道東を襲った「彼岸荒れ」という北の大地の強烈な大自然のために、多くの人たちの思惑がおおいに外れ、振り回されるのです。
そして後半になり、物語は特定の場所に収斂してサスペンス感に満ちた展開になります。
そうした事件の最初は、川久保巡査長の音にもたらされた一件の死体と思われる情報でした。
北海道の地吹雪というものを私は知りません。一度だけ十二月の札幌に行ったことはあるのですが、めずらしい暖冬でほとんど雪を見ないままに帰ってきたことを思い出しました。
本当の地吹雪は数メートル先が見えない、と聞きます。実際、吹雪の中、吹きだまりに突っ込み身動きが取れなくなった親子が、数百メートル先に人家があったにもかかわらず凍死した事故があったのは、それほど昔のことではなかったと記憶しています。
この予定外の「彼岸荒れ」に振り回された人たちの一夜の人間模様が繰り広げられるのですが、作者の筆のうまさは光っています。駐在さんという主人公の立場を上手く利用して地域に密着した物語を作り上げています。
地域密着という意味ではシリーズ前作の『制服捜査』のほうが上手くできていたとは思うのですが、本作も川久保巡査が大事なところで物語に絡んできます。
地域住人の相談に上手く乗ってやれなかった時にはそれで良かったのかと後悔し、なんとか事後をフォローしようとしたりする姿は、刑事ものではまず見られない主人公の姿であり、その姿こそが本シリーズの魅力なっているようです。
香山二三郎氏の「解説」で知ったのですが、著者は、本シリーズは「保安官小説」だと言っておられるそうです。地域に根付いて、住民の生活に深く根差しながら住民の安寧を守る駐在さんは、まさに保安官でしょう。今後の展開も楽しみなシリーズです