新宿に北の国から謎の男が現れる。獣のような野性的な肉体は、特別な訓練を積んだことを物語っていた。男は歌舞伎町で十年以上も前に潰れた暴力団のことを聞き回る。一体何を企んでいるというのか。不穏な気配を感じた新宿署の刑事・佐江は、その男をマークするのだが…。新宿にもう一人のヒーローを誕生させた会心のハードボイルド長編小説。(上巻 : 「BOOK」データベースより)
ついに、北の国から来た男の正体と目的が分かった。その瞬間、新宿署の刑事だけでなく暴力団の幹部までもが息を呑んだ。「あの時の…」彼は十二年前に葬られた、ある出来事の関係者だったのだ。過去の秘密が次々に明かされていく。やがて彼は「獲物」を仕とめようと最後の賭けに出る。だがそこには予想だにしていない悲しい結末が待っていた。(下巻 : 「BOOK」データベースより)(「BOOK」データベースより)
この小説の紹介文には「ハードボイルド長編小説」とあるのだけれど、若手刑事を主人公とするアクション小説と言ったほうがよさそうな小説です。
ネットで、「もんでんあきこ」の『雪人 YUKITO』という、原作を大沢在昌の『北の狩人』とする、一巻だけ無料のコミックがあったので読んでみました。これがなかなかに面白く、早速原作を読んでみた次第です。
驚いたことに、lこのコミックの原作『北の狩人』という作品は、以前読んだ『雨の狩人』という作品と同じシリーズの一巻目でした。そのうちに読もうと思っていた作品を思いもかけない出合いで読むことになったわけです。
コミックで感じた朴訥とした主人公の佇まいもそのままに物語は始まります。コミックでの印象の通り、新しいヒーロー像の出現をわくわくしながら読み進めました。
ところが、序盤を過ぎたあたりから、物語の雰囲気が微妙に変わってきます。上下二巻のこの作品の上巻も半ばを過ぎる頃には、読み始めに感じていた「朴訥な田舎の青年を中心とする新しいサスペンス」であるはずの物語は、普通のアクション小説に変わっていました。
詳しく書くとネタバレになりそうなので書けませんが、本書の根幹の謎にかかわる人物の生存という設定も、新宿という町で堂々と生きていけるのかという疑問などもあって、当初感じていたこの小説に対する期待感も徐々に薄れていきました。
それでも、大沢作品らしいアクション小説として普通に読み終えることができ、無理して読了、などでは決してなく、それなりの面白さはありました。
あとがきで、千街晶之氏が主人公の梶雪人について「純朴な梶は、巻頭の登場シーンこそ不穏な雰囲気を漂わせているものの、後半は何やら頼りなくも見えてくる。」と書いておられます。このことこそが途中で期待が薄れてきた原因だと思われます。「新宿鮫」を思わせるヒーロー像あったはずの存在が普通の青年に変わってしまったのです。
そこでも書いてあるように、代わりに佐江という新宿署の刑事と、宮本、近松というヤクザ、それに新島という正体不明の男が登場します。
残念なのは、これらの強烈な男たちの描写が今一つ深みを感じられないところでしょうか。梶という男のヒーロー性の喪失を補ってくれるほどのものではなかったということです。
今ひとり重要な登場人物として杏という女子高校生もいますが、この娘の魅力も感じられず残念なところでした。