新米巡査・柿田亮は、自分が警察官に向いているのか悩みつつも、異動先の機動隊で激しい訓練を受けていた。そんな柿田に、ハイジャックなど凶悪事件を解決する特殊急襲部隊『SAT』入隊の声がかかる。若い警察官の成長を書く、著者の警察小説新境地!(「BOOK」データベースより)
警察小説の名手今野敏によって、またユニークな警察小説が発表されました。
本書『精鋭』は、確かに警察小説です。しかし、ミステリーではありません。言ってみれば、警察という組織の紹介を兼ねた、一人の青年の成長譚でもある長編小説です。
警察官として任官した柿田亮は、現場や警察学校での研修を終えたのち、所轄の地域課へと配属されて軍隊と警察との差異など、警察の本質について教えられます。また、警察内部の警備部、そしてその中の公安、また機動隊などの国を守る様々な部署という具体的な組織についても学ぶのでした。
以上のようにして、本書は警察という組織を紹介する小説ともなっています。
また、それぞれの配属先で突き当たる現実と、警察というものの在り方との間で悩み、何故そうした悩みを抱くか、の検討の過程で、その職場の職種とそれに対する警察官の心得を明らかにしてあります。
その結果、作者なりの一応の結論を導いたうえで、主人公を身体を動かすことを主にできる職場へと転身させています。その結果、警備という職分の中での機動隊という、普通の警察小説ではまず舞台になることはない分野が舞台となっていきます。
勿論、その場所ではその場に応じた新たな疑問が噴出し、それに応じた悩みに直面します。しかし、もともと学生時代の部活動としてラグビーをやっていた柿田はただひたすらに身体を動かすのです。
自分の現在、環境について悩む主人公の姿を追いかけるこの『精鋭』という作品は、めずらしい青春小説としても捉えることができそうです。
それは中学生や高校生が主人公の青春物語とはまた異なる、現在進行形で社会で鍛えられている青年の成長物語という意味でのそれです。
ミステリーの要素は全く有りません。その代わりと言っては語弊がありますが、改めて日本という国のありようを考えるきっかけともなりうる物語でもあります。
警察組織の中で生きていく主人公は、警察とは何かを考えていくのですが、それは読者に対しての問いかけでもあるようです。警察組織は時の権力者の擁護組織として進化してきたのであり、そうした組織の中で、作者は、一人の警察官に、警察官は権力者を守るのではなく、市民を守る組織だと認識していると言わせています。
その考えは、後になって自衛隊の存在に関わる問いとなって、再度問いかけられます。
本書『精鋭』は、様々な読み方ができる小説です。今野敏という自ら格闘技をマスターし、警察小説を数多く書いている作者だからこそ書ける小説だと思えます。