北町奉行所同心の中根興三郎は、朝顔栽培を唯一の生きがいとしている。世の中は井伊大老と水戸徳川家の確執や、尊王攘夷の機運が高まり不穏だが、無縁だ。だが江戸朝顔界の重鎮、鍋島直孝を通じ宗観と呼ばれる壮年の武家と知り合ったことから、興三郎は思いも寄らぬ形で政情に係わっていく。松本清張賞受賞。(「BOOK」データベースより)
「両組御姓名掛りという奉行所員の名簿作成役」同心である中根興三郎は、図体は大きいものの気性は優しく、朝顔の栽培にのみ熱中している男だった。
幕末の江戸では政情不安な中朝顔の栽培が盛んで大名まで乗り出すほどだったが、元北町奉行鍋島直孝の屋敷前では絶命していた武家の死体が消えたり、また辻斬り事件まで起きていた。
そうした中、興三郎は朝顔栽培を通じて朝顔界の重鎮である鍋島直孝の屋敷で宗観という人物と出会い、時代のうねりの中に引き込まれることとなるのだった。
前に読んだ「柿のへた」でもそうでしたが、植物を中心に話が展開するためなのか、文章が優しいです。決して派手さはありません。
でも、淡々と語られる朝顔に対する主人公の思い入れや蘊蓄は常に朝顔に対する愛情にあふれています。
その愛情が他の人にも伝わり、周りの人をもその愛情で包もうとするようです。
歴史上の人物が少しだけ顔を見せたり、ミステリーの要素も少しだけですがあったりと、内容もはそれなりに盛りだくさんではあります。
ストーリーも結構入り組んでいます。敵役が若干型にはまっている感じがしないではありませんが、それも瑕瑾にすぎません。何よりも朝顔についての描写が見事で飽きさせません。
と少々羅列気味になりましたが、とにかく軽く読み飛ばせる物語ではないと言いたかったのです。
決して明るい物語ではありません。でも、派手さは無いけど、読んでいてゆっくりとした時間が流れる、そうした心地よい時間を持てる一冊だと思います。