江戸の町を繁栄させるのは物が動き、銭が動くことだ―いなりずしから贋金まで、物価にまつわる騒動の始末に奮闘する同心・澤本神人。家では亡くなった妹の娘・多代を男手ひとつで育ててきたが、そこに居酒屋の美人女将が現れて―物の値段に人情を吹き込む新機軸の時代ミステリー!(「BOOK」データベースより)
本の帯には「時代ミステリー」と銘打ってあるのですが、ミステリーというよりは人情ものといった方が良いと思います。
「雪花菜(きらず)」「犬走り」「宝の山」「鶴と亀」「富士見酒」「幾世餅」「煙に巻く」の七編で構成されています。
主人公の澤本神人(さわもとじんにん)は、諸式調掛方同心という江戸市中の物の値段や許しのない出版などを調べるのが職務という珍しい設定です。
「一朝の夢」にも出てきた北町奉行鍋島直孝により、「顔が濃い」という理由で定町周りから諸式調掛方へ配置替えとなりました。まん丸顔で数字に明るい庄太という小物を引き連れ江戸の町中を歩き回ります。
読み始めはとても謎ともいえない謎ときで、これといった人情話があるわけでもなく、この作家さんは短編は不得意なのかと思う出来でした。
それが読み進むにつれ変わっていきました。
短編ごとに稲荷鮓屋、献上物や贈答品の余剰品を扱う献残屋、紙屑買い、獣肉を食べさせるももんじ屋など、江戸の種々の商売を織り込んだ話は江戸の豆知識にもなっていて、それが人情話を絡めた物語になっていくのです。
やはり朝顔同心の作者だと思える、人情ものとして仕上がっていました。
朝顔同心程の心地よい読後感とまではいきませんでしたが、軽く読める人情本といったところでしょうか。それでもシリーズ化される雰囲気もあり、それがまた楽しみな作品でもあります。