研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた―。男たちの矜恃が激突する感動のエンターテインメント長編!第145回直木賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
私の住んでいる熊本市中央区を震度六強の地震が襲ってから(四月十六日午前一時二十五分ごろ)、今日でちょうど四週間が経ちました。街を歩くと、ここらでは全壊している家屋はありませんが、それでも壁が崩れている建物が散見され、壁にひびが入っている建物や瓦が落ちている建物は数知れません。
余震が続いているのは変わりません。小さな余震でもその先に少しの恐怖があります。でもしばらくはこの状態を我慢するしかありません。
さて本書『下町ロケット』は、テレビで評判を博したドラマの原作となった池井戸潤の作品で、全四部からなる作品の第一部です。
『半沢直樹』のドラマ版のあまりの評判の良さと、主演が阿部寛という私が好きな役者さんであることもあり、原作は未読ではあったもののドラマ版を見てしまいました。その予想以上の面白さに、『半沢直樹』の評判がいいことの意味も確かに腑に落ちると感じたものです。
そして、今回ドラマの前半部分の原作を読み終えたのですが、読んでいる途中もドラマの役者さんの顔や演技が脳裏に浮かび、読み進むにつれ頭の中で役者さんの演技が再現されていくのを感じました。
それほどに原作のイメージをそのままにドラマ化されていたのです。また、そのことは原作が痛快小説の型をきちんと押さえている作りになっていることをも感じさせるものでした。
主人公の佃航平という中小企業の社長は、大企業の横暴による資金繰りの苦労や社内での労務管理の難しさなどの困難に直面します。それでいて主人公の誠実な業務遂行の態度は変わらず、社内外での佃製作所及び佃航平という人物への評価も好転していきます。
読み手のカタルシスを醸成するストーリー展開があり、そのストーリーを読みやすく構成する作者の筆力があって、物語の世界に素直に入っていけるように組み立てられています。手放しでほめちぎっていますが、痛快エンターテイメント小説のお手本のような物語だと思うのです。
幼い頃、映画館に行けばいい大人たちがスクリーンに向かい歓声をあげ、拍手をしている姿を思い出しました。
一介の中小企業の親父が大企業に立ち向かい、その壁を乗り越えてゆく。面白くないわけがありません。読みながら拍手喝さいをしている自分がいるのです。
他にも、大企業の中にも佃製作所の技術力を評価する人物が現れたり、法務関連の救世主が現れたりと、一面ではご都合主義と取られかねない点があることも事実だと思います。
しかしながら、そうした点もふまえた上で一般読者の欲求をうまく拾い上げ、爽快感を味あわせてくれる作品になっていると思います。
理屈抜きで楽しめるこの作品は、第145回直木賞を受賞しています。