ルポ・ライターの失踪、怪文書、東京都知事狙撃事件…。西新宿に探偵事務所を構える沢崎が立ち向かう難事件の背後には巨大な陰謀が隠され、鮮やかなラストシーンに向って物語はスピーディに展開してゆく。レイモンド・チャンドラーに心酔する、ジャズ・ピアニストの著者が2年の歳月をかけ完成させた渾身の処女長篇。いきのいい会話と緊密なプロットで贈る、期待の本格ハードボイルド登場。 –このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。(Kindle版「BOOK」データベースより)
極端な寡作家で知られる原りょうの、強烈なインパクトを残したデビュー作である長編のハードボイルド小説です。
原りょうの新刊『それまでの明日』が出たことに驚いていたところ、伝説のデビュー作が新たにハヤカワ・ポケット・ミステリから刊行されました。
ちょうど図書館で新刊コーナーに置かれたところだったのですが、誰も借りようとはしないみたいで楽に借りることができました。
冒頭の澤﨑の事務所での場面で残されたのは、テーブルの上の金の入った封筒と、静かに漂う紫煙と「タバコをありがとう。口は悪いが、タバコの趣味は悪くない。」との海部の言葉でした。この場面だけで王道のハードボイルド小説だと分かり、そして読者はこの物語に惹きこまれます。
この冒頭の場面だけで、すぐにチャンドラーの作品を思い出してしまいました。
雰囲気そのものがチャンドラーであるのと同時に、探偵が大富豪の家へ行き、そこで一人の女性と出会うという場面もチャンドラーで読んだ気がしたのです。多分チャンドラーの『大いなる眠り』だと思われます。
本書のプロットはかなり複雑です。登場人物もかなりの数にのぼり、誰がどのような役割を担っていたのかが分かりにくくさえなります。それでも、一つずつ謎が明らかにされていくにつれ、更に物語に引き込まれていくのです。
なにより、ハードボイルドの一番の魅力である主人公の性格設定がまさにハードボイルドであり、探偵としての、また一人の男としての筋を強烈に持っていて、魅せられます。
ハードボイルドとしては必須の小道具も、両切りの“ピース”という渋いタバコです。今では知らない人も多そうな銘柄ですが、そもそも嫌煙運動華やかな現代では受け入れられないかもしれません。
私立探偵である澤﨑としては、公権力の利用ができれば実に便利であり、そのための協力者的立場にいるのが新宿警察署の捜査課にいる錦織警部です。ルパン三世の銭形警部を彷彿とさせるこのキャラクタ―もまた本書の魅力に一役買っています。
また、本書に関しては、ハヤカワ・ポケット・ミステリという世界的な叢書から出るということも見どころです。
ハヤカワ・ポケット・ミステリ自体、 世界のミステリー作品を紹介している叢書であり、中学・高校時代に大人の本という印象を持っていた記憶があります。たしか、この叢書のSF版もあったはずですが、それはまた別の話でした。
勿論、文庫版も出ており、ハヤカワ・ポケット・ミステリへの思い入れのない人は文庫版のほうがいいと思われます。