公安調査庁の分析官・芳野綾は、武装した中国漁船が尖閣諸島に上陸するという情報を入手。現場調査官の沼田と事実を追うが国内の関係省庁は否定。しかも沼田に情報を提供した「協力者」がスパイの疑いを掛けられてしまう。苦境の中、綾が辿り着いたのは、日本が未曽有の危機に引きずり込まれる「悪魔のシナリオ」だった。ノンストップ諜報小説。(「BOOK」データベースより)
公安調査庁は、昭和二十七年、日本がアメリカの占領下から解放された翌年、かつての特高、特別高等警察出身者や陸軍の特務機関間員らによって設置されました。
同時に制定された破壊活動防止法で任務が規定され、当初は破壊活動や危険な扇動を行う集団、団体や個人の情報を収集するための中央官庁としてあり、調査第一部という国内担当部門が活動していたそうです。
調査第二部の任務は公にされることはなかったそうで、後に国際情勢の変化に伴い、国家の政策を決めるための「情報サービス機関」および官邸からのオーダーを実現させる「オペレーション機関」へと変貌していきました。
日本の公安警察の「ZERO」という機関は、その任務はあくまで容疑者を逮捕、送検することにあり、それがゴールです。
警察庁と都道府県警察の公安部門を指す公安警察とは異なり、公安調査庁の任務のゴールは政治決断者に情報をサービスすることという差異があります。
本書のあらすじはあまり必要がない気がします。ざっとした筋を知りたいという人は、「BOOK」データベースの文章で十分ではないでしょうか。
つまり、本書の主人公は公安調査庁の分析官・芳野綾という女性ですが、本当の主人公は「情報そのもの」ではないかと思えるほどに、集められた情報処理及びその分析の過程こそが本書の見どころなのです。
物語は、尖閣諸島の実効支配に向けて船団が出発するという情報に接した主人公が、その裏を取りつつも、その信ぴょう性を疑う上司を説き伏せ、日本国の危険を回避する努力を描いてあります。
その過程で、自衛隊、特に本書では海上自衛隊の一線の将校の姿も描かれ、尖閣諸島という現実に紛争の発火点ともなりうる場所をめぐる諜報戦は、サスペンスに満ちた物語として出来上がっています。
これまで色々なインテリジェンス関連の小説を読んできましたが、本書が一番リアリティに富んでいる印象を受けました。
勿論、あくまで小説であり、かなりな誇張、デフォルメがされていいるとは思います。それでも我々が平和な日常を送っているその裏では、本書のような活動があっていることもまた事実ではあります。
本書の話は、個人的にそうした世界に身を置いていた人物を知っていたこともあって、単純にフィクションとして片付けられない話なのです。
ただ、意外な展開を見せる結末は個人的には不要ではないかと思いました。それまで感じてきたその真実性が、かなり差し引かれることになったからです。
いずれにしろ、公安調査室を舞台にした小説は珍しく、ましてや情報分析という作業を誇張があるとは言え目の当たりにできることは、かなり惹きこまれて読んだ作品でした。